歴史小説

「白圭」と「孟嘗君」から学ぶこと、宮城谷昌光「孟嘗君」が面白い

宮城谷昌光「孟嘗君」は、今まで一番読み返したことのある小説の一つです。宮城谷昌光氏の著書はほとんど読んでいて、何度も読み返している本も多いのですが、その中でも「孟嘗君」が一番の一冊です。この本に登場する「白圭」からは多くの学びを得れます。

「孟嘗君」ってどんな人?「白圭」とは?どのような関係なのか

孟嘗君は中国戦国時代の斉の人で田文という人です。斉の威王の孫となる人で、父親は田嬰という斉の宰相です。年代的には、紀元前250年ごろの人です。漫画「キングダム」より少し前の時代と言った方が伝わるかもしれません。

斉、秦、魏の宰相になったことがあり、「食客が3,000人いた」という逸話や「鶏鳴狗盗」「狡兎三窟」という故事のもとになった人物でもあります。

宮城谷氏は著書の中で、古代中国では、国は天が治めていた。その代人として王がいました。そして、天の代人としての王の存在から人としての王が治めるようになったのが、春秋五覇の斉の桓公です。そして、次に宰相たちが国を治める時代が来ます。そして人が治める時代が来ます。その後法が治める時代、民衆が国を治める時代となっていき、現在に至っているという考えの中で、人が治める時代の人とは「孟嘗君」であり、「孟嘗君」という人が中心に国が回っていくようになったと評しています。

余談ですが、司馬遼太郎氏は、宮城谷氏に「孟嘗君」のような人物をよく小説にできたなと言ったそうです。その逸話は、「史記の風景」の中に書かれています。

もう一人の主人公が「孟嘗君」の育ての親として登場する「白圭」

「白圭」は周の時代に実在し司馬遷の『史記』貨殖列伝に書かれている商業の祖師な人物です。人が捨てる品物を私が集め、人が欲しい品物を私が市場に出すことによってビジネス展開した人物と言われています。また魏の大梁を流れる川の治水をおこなったことで有名でもあります。

その「白圭」が「孟嘗君」の育ての親として登場します。これは事実ではありませんが、「白圭」という伝説的な人物を非常に魅力的かつ「孟嘗君」の思想を作った人物として説得性のある形で登場します。

余談ですが、宮城谷昌光氏の著作は、「孟嘗君」の「白圭」のようなサブ的重要人物の方が魅力的に感じることが多いです。他には、「晏子」に登場する「晏嬰」の親である「晏弱」も魅力的な人物です。著書の主人公?的な人物には資料が多く残っているが故に動きが制約されてしまうのかなと思います。

「白圭」による「仁」という言葉の説明が秀逸

下記の一説は、実は私のFacebookの好きな言葉に書いているものなのですが、これは「白圭」による「仁」という言葉の説明です。「孟嘗君」には、「仁」があるので多くの人が彼の元に集まってくる。その「仁」という言葉について「白圭」が説明した一節です。

『人を愛すれば、勇気が湧く。人のむこうにあるおのれを愛することを仁という。人のこちらにあるおのれを愛することは仁とはいわず、そこには勇気も生じない。』

経営者として人として「白圭」は目指していきたい理想像

「孟嘗君」という小説は「孟嘗君」が主人公なのですが、「孟嘗君」を読むたびに経営者として人として「白圭」のようになりたいと感じます。とにかくかっこよく、かつその言葉に重みがあります。

白圭は最初から商人だったわけではなく、途中で商人を目指すようになります。商品になる際に、公孫鞅の師匠である尸佼との会話の一節に以下のようなものがあります。

「義を買い、仁を売ります。利は人に与えるものだと思っております。」
社会的責任において買ったものを心で売る。そこで得た利益を世の人に還元するということである。

ビジネスをするうえでも人としても大事な考えだと感じます。そのほかにも「孟嘗君」の中で気になる箇所、好きな個所をピックアップしてみました。

新しいことをはじめるのであれば、新しい姓が要る

白圭は物語の最初には風洪という名で登場します。そして、商人を目指す際に白圭と名を変えるのですが、その理由は、義弟である公孫鞅による「もらった姓には、盛衰があり、風という姓は古いので捨てた方が良い」というう助言をもらったことによります。余談ですが、公孫鞅は秦の宰相であり、始皇帝による天下統一の基盤を作った人物と言えます。

この助言を受けて風洪は、「新しいことをはじめるのであれば、新しい姓が要り、これまでの自分をすてるのあれば、古い姓をすてねばならぬということか」と語ります。古代中国では姓というものを非常に大事にしていたという側面もあるからこその一節であり、読者にとっては、風洪という聞いたこともない人物が突然に伝説的な商人である白圭となる驚愕する場面です。

君主に勇気と思いやりと決断力が揃っていれば名君である

後に白圭となる風洪の秦の孝公を評する一節に

「君主というものは、三つの要素で成り立っている。勇気と思いやりと決断力である。その3つがそろっていれば名君である。」

経営者やマネージャーの評価としていろいろなことが挙げられますが、この3点に集約されると言っても過言ではないと感じます。


下記は解説は入れていませんが、気になった一節です。

風洪が学問をしたいと考え始めたときに、妹の風麗に語った一節

「剣はわが身を守り、遊びはわが身をなぐさめる。むろん剣で人を助け、遊びで人を楽しませることもできる。が、小さい。あるいは逆だ。人を助け、人を楽しませることが先だ。そうすることが、おのずと自分の保身となり慰謝となる道があるはずだ。そんな大道を歩いてみたくなった。」

孫子が風洪に授けた策 -譲威の策-

譲威の策とは、尾を蔵す(かくす)ということ。戦場では、その尾というのは軍の後尾、あるいは後続部隊のことで、これを敵にさらさず、敵のでかたをうかがうということ

風洪とライバル?の郭縦との会話の一節

(戦争が起きたとしても)わしはすぐに立ち直る。なぜなら、わしは財を蔵に積まず、日地に積んでいるからだ。人が手をさしのべて、わが家を再興してくれるであろうし、わが家ができることで、多くの人は分配される富を手にすることができる。

同じく郭縦の師について

真の知恵とは、特定の人がもっているわけではなく。遠くにあるわけでもなく、ごく身近にあり、それをつねにおのれの向上のために、どのようにあてはめていくかということ

「孟嘗君」は人としての生き方を学べる。

個人的には歴史小説は小説として楽しむものだと思っていますが、宮城谷昌光氏の著作は常に学びがあります。言葉の大事さ、古代中国の人たちのすごさ、雑学的に漢字の成り立ち、意味などが娯楽としての小説を超えて楽しむことができます。

正直なところ、最近の宮城谷昌光氏の著作は個人的には歴史書的というか教科書的な感じになってきて楽しめていないのですが、「孟嘗君」はぜひとも読んでいただきたい本です。

「孟嘗君」は文庫本だと5巻までありますので、送料などを考えるとセット商品の購入がオススメです。1998年発行の古い本ですので、中古品だとタイミングがよければ1冊数円で手に入ります。

ぜひともチャレンジしていただきたいです。

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